Telemedicine Report
記事リリース日:2018年6月22日 / 最終更新日:2019年1月21日
※本記事はシリーズとなっておりますので前記事からの閲覧をおすすめ致します。
前々記事『【2018年版 動き出すオンライン診療1】新制度はこうなる』はこちらからご覧ください。
前記事『【2018年版 動き出すオンライン診療2】かなり窮屈なルール?』はこちらからご覧ください。
オンライン診療(遠隔診療)のメリットは、患者が病院やクリニックなどの医療機関に出向かなくてもよいことです。患者が医療機関に行かなくてよくなれば「移動がなくなる」ので、患者の負担が減ります。
オンライン診療(遠隔診療)のこのメリットは、訪問診療でも生かすことができます。医師が患者宅を訪問する訪問診療にオンライン診療(遠隔診療)を導入すれば、医師の移動がなくなるので、医師の負担も減ります。
医師の負担を減らすことは、医療の効率化につながります。
訪問診療は末期がん患者や高齢者のお看取りを見据えた医療で利用されることが多いのですが、オンライン診療(遠隔診療)を組み合わせることで「お看取りの質」を高めることができそうです。
2018年4月からスタートした新オンライン診療制度も「訪問診療+オンライン診療」を後押しする内容になっています。
※オンライン診療(遠隔診療)のメリットは、患者が病院やクリニックなどの医療機関に出向かなくてもよいことです。患者が医療機関に行かなくてよくなれば「移動がなくなる」ので、患者の負担が減ります。
目次
オンライン診療(遠隔診療)を使うかどうかに関わらず、訪問診療による在宅でのお看取りは、時代の要請でもあります。ちなみにお看取りとは、亡くなりそうな方を家族、医療、介護がケアし、死を迎えていただくことです。
2009年の日本人の死亡場所は、病院78.4%、自宅(在宅)12.4%、その他9.2%となっています。
ところが1951年の日本人の死亡場所は、病院9.1%、自宅82.5%、その他8.4%でした。
つまり「病院1割、自宅8割」が「病院8割、自宅1割」へと完全に逆転したのです。
病院での死亡が自宅での死亡を上回るようになったのは、1970年代です。「病院で死ぬのが当たり前」という感覚は、ここ50年ほどで形成されたにすぎないのです。
病院でのお看取りは、医療費を増やすことになってしまいます。老衰で亡くなる場合、その直前に医療的な処置はほとんど行わないのですが、入院ベッドや医療従事者の人件費がかかります。
在宅でお看取りすれば、そのような費用はほとんど不要になります。
国の医療費予算はうなぎのぼりで、国の財政を圧迫しています。公的医療保険制度の存在を脅かすレベルにまで達しています。
また、自宅で家族に囲まれて亡くなりたいという人や、家族は自宅で看取りたいという方もたくさんいます。
訪問診療や訪問看護、訪問介護を使って自宅でお看取りをすることは、社会的な要請でもあり、「死の質」を高めることにもつながるのです。
そこで政府は訪問診療の普及を狙って、訪問診療をする医療機関への報酬を引き上げる政策を取ってきました。
訪問診療は確実に拡大していますが、ただ業務の効率化や医師の負担を減らす対策はまだ十分とはいえません。
その切り札になるのが、ITによる省力化です。ITをフル活用したオンライン診療(遠隔診療)は、だから訪問診療にうってつけなのです。
オンライン診療(遠隔診療)と訪問診療を組み合わせて、在宅での質の高いお看取りを成功させた事例として、福岡市のTクリニックのケースを紹介します。
福岡市のTクリニックの事例は2018年2月、日本遠隔医療学会で発表されました。
Tクリニックは訪問診療専門のクリニックで、2名の医師が在籍しています。Tクリニックには、訪問診療の効率性の悪さという課題と、訪問診療がオンライン診療(遠隔診療)にとってかわられてしまうのではないかという危機感がありました。
それで自院でもオンライン診療(遠隔診療)を訪問診療に組み込むことにしたのです。
Tクリニックの医師が同学会で報告した患者は80代の男性で、末期の悪性リンパ腫を発症していて余命1、2カ月という状態でした。患者と家族は入院を選択せず、自宅で暮らしていました。Tクリニックは週2回の訪問診療を行い、その間をオンライン診療(遠隔診療)で埋めることにしました。
患者側のオンライン診療(遠隔診療)の受け答えは、同居していた娘が受け持ちました。
結論を先に述べると、家族が満足できるお看取りができました。それは次の3つが実現できたからです。
1つずつみていきましょう。
これまでのTクリニックの訪問診療では、診療時間よりも移動時間のほうが長くなることがありました。家族が急変と判断してTクリニックの医師を呼んだ場合でも、医師が駆けつけてみると医療的な処置が要らないことは珍しくありません。
家族でも行える処置で済むのに、訪問診療医を呼んでしまっては、医師の負担と医療費が増えるだけです。
ところがオンライン診療(遠隔診療)を導入すれば、そのような「無駄な訪問診療」を行わないで済みます。臨時訪問診療が必要かどうか、オンライン診療(遠隔診療)のテレビ電話を使って確認できるからです。これにより「次の定期の訪問診療まで待つことができる」と判断できるわけです。
今回のTクリニックのオンライン診療(遠隔診療)では、医師は患者の発赤を確認できました。これは悪性リンパ腫に特有の症状でしたので、医師は臨時の訪問診療はしませんでした。ただ軟膏を処方する、という適切な治療判断は行うことができました。
またオンライン診療(遠隔診療)によって、患者の排尿回数が減ったことと、尿の色が濃くなる濃縮尿を確認することもできました。濃縮尿は腎臓の機能低下のサインですので、最期が近くなっていることがわかります。
さらにオンライン診療(遠隔診療)で患者の痙攣(けいれん)を確認したときも、医師は訪問診療を実施することなく、家族に座薬を中止するよう指示しました。
そして、患者が自分で排尿できなくなったことを家族からオンライン診療(遠隔診療)経由で知ることができた医師は、最期が近いから親族を呼ぶよう助言しました。
医師はこのときになって初めて臨時訪問診療を実施し、お看取りをすることができました。
この事例は、「オンライン診療(遠隔診療)はお看取り期に入った患者の様子をこれだけ正確に把握できる」ということを示しています。
Tクリニックの医師は、患者宅に訪問看護に入っている看護師から電話で情報を得ても、医療的な判断は下しにくい、と述べています。そうなると医師の本能として「臨時訪問診療を行って実際に様子を見たい」となってしまいます。
しかしオンライン診療(遠隔診療)ではビジュアル情報が得られるので、臨時訪問診療が要るか要らないかを適切に判断できたといいます。
Tクリニックの医師は、オンライン診療(遠隔診療)では患者側と医師が常に顔を確認できたので、安心感を醸成できたと述べています。
オンライン診療(遠隔診療)を導入すると、患者は文字通り24時間365日にわたって医師とつながることができるからです。
亡くなった80代の男性患者の娘には、認知症を発症している母親もいるのですが、「母親がかかっている物忘れ外来でもオンライン診療(遠隔診療)を導入してもらいたい」と話しているそうです。それだけ今回のオンライン診療(遠隔診療)によるお看取りに満足できたということです。
Tクリニックの事例では、訪問診療におけるオンライン診療(遠隔診療)を使ったお看取りの課題もみえてきました。
Tクリニックの医師は、オンライン診療(遠隔診療)を導入する前からこの患者を診察していました。
オンライン診療(遠隔診療)をスタートさせる前に、医師と患者側の間にある程度信頼関係が築かれていたわけです。
訪問診療を望んでいる患者とその家族に、医師のほうから積極的にオンライン診療(遠隔診療)をすすめてしまうと、患者側に「この医師は訪問することを面倒に感じているのではないか」という疑念がわいてしまうでしょう。
そうではなく、オンライン診療(遠隔診療)によってむしろ患者と医師が深くつながることができることを患者側に理解してもらうには時間が必要でしょう。
Tクリニックの事例では、男性患者と同居していた娘がスマホを使いこなすことができたので、オンライン診療(遠隔診療)を導入することができました。しかしもし80代の末期の悪性リンパ腫の男性と、認知症を発症しているその妻だけの2人世帯だった場合、オンライン診療(遠隔診療)を行うことは難しかったでしょう。
在宅患者へのオンライン診療(遠隔診療)は、患者側に通信機器を使いこなすスキルが必要になります。
オンライン診療(遠隔診療)は情報通信機器とネット環境を使うため、コストがかかります。
患者側は、スマホを購入するコストがかかります。
医療機関側は、オンライン診療(遠隔診療)のシステムを導入する必要もありますし、システム利用料を支払わなければなりません。またパソコンやネット環境ではセキュリティーをより強固にしなければならないのですが、これもコストを押し上げます。
公的医療保険を使うことができる保険診療に2018年4月から「オンライン在宅管理料」という項目が新設されました。訪問診療を行っている医師がオンライン診療(遠隔診療)を導入した場合に、医師が所属している医療機関にオンライン在宅管理料が支払われるようになりました。
オンライン在宅管理料は月1回1,000円で、このうち1~3割(100~300円)を患者が医療機関に支払い、残りの9~7割(900~700円)を医療保険が医療機関に支払います。
オンライン在宅管理料は、在宅時医学総合管理料に加算される形で医師側に支払われます。
在宅時医学総合管理料とは医師が患者宅にうかがって訪問診療をしたときに訪問診療料とは別に受け取ることができる報酬です。
訪問診療料は1回8,330円です。
訪問診療料は1回実施するごとに発生しますが、在宅時医学総合管理料は1カ月に1回発生します。
例えば医師が、ひと月の間に1回訪問診療を行い、1回オンライン診療(遠隔診療)を行ったとします。この場合医師側は、次の金額を得ることができるわけです。
訪問診療料+在宅時医学総合管理料+オンライン在宅管理料
新しい診療報酬が設定されたことで、訪問診療とオンライン診療(遠隔診療)を組み合わせた医療を提供するクリニックが増えていくかもしれません。
工業製品や食料品は、コストダウンを図るために製造拠点を海外に移したり輸入品で代用したりすることができます。しかし医療のコストダウンは、海外進出や輸入では実現できません。
とはいえ、公的医療保険制度を持続させるには、医療費の削減や医師や看護師などの負担を減らすことに取り組まなければなりません。
訪問診療は医療の質を落とさず医療のコストダウンを図る有効な手立てですし、そこにオンライン診療(遠隔診療)を加えることでさらなるコストダウンが期待できます。
オンライン診療(遠隔診療)は日本の医療を支える新しいシステムといえるでしょう。
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